プリコジンのまとめメモ〜「散逸構造論」

プリゴジンの考え方を読み返してみました。どちらかというと「時間の矢」の方がポピュラーなトピックですが、人間とか心というものを扱う時、そもそも命、生命とは何かという重い問題につきあたります。散逸構造論で、プリゴジンは物理の数式でこれを立証していったわけですが、感覚的にも熱力学に逆行する生命というのは了解できるような気がします。「生死」「老い」「アイデンティティ」などを考える上で示唆されるものがあたくさんありました。

「時間の矢」も興味深いテーマですが、生命とは少し離れてしまいますのでまたの機会に考えたいと思います。

生命現象は散逸構造体である

還元主義科学の理論、たとえば熱力学の第二法則は、生命抜きの実験室から得られた理論である。その理論に真っ向から反対するものが生命であり、熱力学においては生命は例外、異常な現象といわれてきた。最終的な熱的死(エントロピーの極大化)に向かうとされている宇宙の中で、生命だけがその方向に反している。つまり生命は、常にエントロピーを排出しながら、自己の中で秩序を形成(すなわちエントロピーを減少)しているのである。

コンピュータ・テクノロジーを駆使した現代生物学において、還元主義的手法によるアプローチでは、この問題は依然として解決されておらず、「生きているか、死んでいるのか」は、現象的生理学的(環境適応性、刺激感応性、運動、呼吸その他の代謝、成長、増殖など)な証拠と、物質的形態学的(細胞構造、タンパク質などの組成成分)な証拠のいくつかを組み合わせて判断しているだけで、生命のそのものの定義はできていない。

この中で、生命に関する洞察を一歩進めたのが、プリゴジンの散逸構造論である。

ベルギー出身の化学者イリア・ブリゴジンは、散逸構造の概念の定式化に、すでに1946年までには取り組んでいたという。自然界には外部からエネルギーを取り入れて、自己のなかでエントロピーを生産し、それを外に排出することによってのみ形成され、非平衡状態のなかで維持されるある種の秩序、構造が存在する事を発見した。この理論が実証されたのは、1960年代後半に発見されたベルーソフ・ジャボチンスキー反応と呼ばれる化学的プロセスによっててある。外部からの連続的なエネルギーの供給によって、時計のような正確さで生きるもののように自己組織化していくこの化学反応は、まさに生命活動をほうふつとさせた。溶液中のさまざまな物質の濃度が、時計のような正確さで振動し、溶液の色を規則的な同期で変えていくのだ。こういった秩序形成が、平衡状態とは遠い世界で起きていく事実、このなかに生命の本質があると考えられた。

私たち人間は食物、すなわちエネルギーを体内に取り入れて生命を保っている。それはある一定の周期と量をもって、連続的に行われている。必要量を上回れば太り、下回ればやせていく。取り入れた食物は、体内で活動のためのエネルギーなり、また自らの身体、細胞を作るために使われる。細胞は組織、すなわち構造をなしている。組織や構造は、エントロピー減少の状態だといえる。つまり生命の身体のなかでは、エントロピーはマイナスの状態、減少の状態にあり、秩序が形成されている。

散逸構造とは、まさにそういった現象を指している外部からフリー・エネルギーを取り入れて、なかでエントロピーを生産し、それを外に代謝していく。そのことによって秩序を形成しているような構造、それが散逸構造なのだ。生命は、決して環境とは切り離じては考えられない。生命は孤立しては存在できない、外部の環境と一体のものなのである。生命現象は、物質をかりそめに構造化することによって存在している現象なのである。

(散逸構造を示す例)
◎生命体を構成している細胞は、つねに活動を続けている。細胞はその本体よりもずっと短い周期で生と死を繰り返しているのである。だからいまここにいるあなたは、数年前のあなたと同じ細胞は脳を除けばほとんどない。にもかかわらず、あなたはあなたであり続けているのである。
◎ロープを地面に置き、片方で大きく上下に揺さぶるとたわみが伝わってあたかも移動しているようにみえる。ロープそのものは位置を変えているわけではないが、あたかも山形の移動している“もの”があるように見える。これが生命現象のたとえである。

プリゴジンの散逸構造論は、すでに広く応用されている。生物学においては解糖サイクル、すなわち細胞が食物からエネルギーを引き出す代謝作用など、多くの現象を理解するうえで、この理論が有効であることがわかってきた。生命に限らず社会でも、散逸構造論は効果を発揮しており、アメリカの運輸省では、それを使って交通の流れのパターンを予測に応用されている。私たちの住む社会も、ある意味では開放系に他ならない。まさに負のエントロピー、秩序そのものだ。そこでは情報というエネルギーを吸収し、外部にエントロピーを吐き出し続けているのである。

 

「ゆらぎ」と「時間の矢」

プリゴジンの概念は「散逸構造論」に加えて、「ゆらぎ」「時間の矢」など重要なものがある。生命を考える上では、散逸構造論のもう一つの重要な概念が「ゆらぎ」である。生命は、エントロピーを排出し続けて“成りつづけて”いるわけだが、それができている間は、成長をしていられるということである。成長が継続するのは自然発生的に、ある秩序が生まれてくるのでからある。エントロピーの増大がランダムに向かう中でこのような秩序が生まれるのが「ゆらぎ」である。時としてこの小さな秩序が相互に作用し全体に影響を及ぼすパターンを作ることがある。それが「自己組織化」であり、進化につながるものである。さらに、彼によって物理化学の世界に、“時間の矢”という概念がもちこまれた。それは生命活動に、一定の方向性をもたらすことになったのだ。そして後戻りはできないこの方向こそが、生命にとっての進化の行方であり、また行動の指針となってくるのである。ブリゴジンの長年にわたる研究は、この世界における時間の役割を明確にすることに注がれてきたといっても過言ではない。

(ゆらぎ、自己組織化の例)
多数の自動車が走るとき、個々の運転手はあくまでも自分の意志でハンドルを握っており、回りの情況は、自主的に判断して運転をしている。しかし、自動車の流れには、ある一定のバターンが生まれてくる。混雑する道、空いている道、スピード、そしてドライバーの意志には関係なく、そこにはある交通の流れのパターンか自然発生する。運転手にはなんの自覚もないし、だれにも強制は受けていない。にもかかわらず、ある流れ、すなわち秩序が生まれるのである。このように、秩序を構成するそれぞれの因子は、みずからの意志で自由に動き回っているにもかかわらず、自然発生的に、ある秩序が生まれてくるのである。

 

〔出典〕

パラダイム・ブック―新しい世界観 新時代のコンセプトを求めて

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